Flower~君の美しい記憶の中で今日も生きていたい~

「たとえ恋い慕う人が運命に巻き込まれようと決して死んではいけない」


どうして彼を好きになったのかはわからない。だけど、この時代と現代を合わせても世界で一番あなたの好きなところを言える自信がある。


「それは恭介さんのせいではないです。それに、あなたが消えてしまえば、その人は生き延びても死んだように息をするしかできなくなります」


「君は未来でも視えるのか?」


否定も肯定もできない。彼のこれから辿る悲痛な天命に胸がいっぱいになった。


「約束してくれる?」


私は恭介さんの前まで来ると小指を立てる。それを見た彼もまた小指を立て、絡ませた。


「__約束しよう。この場所を絶させず、神に縋っても生きることを」


どちらともなく離れた小指。それから、と続けた彼は懐を探る。現れた手の上には桐でできた長箱があった。


恭介さんはおもむろに蓋を開けると中から美しい簪が姿を現す。繊細な飾りのついたそれはこの時代の女性たちの憧れの品であろう。

いくら現代人の私でも、男性から女性に簪を贈る理由は知っている。


「恋人になってくれ。カスミが好きだ」


息をのんだ。

いつ現代に戻るかわからない。断らないといけないのは百も承知だ。だけど、だけど、断ることはできなかった。


「喜んで!!」


恭介さんの首に抱きつく。びくりと肩を震わせた彼だったが、受け止めれくれた。


幸せだ。幸福だ。


どうか、恭介さんがあの日生きることを選択してくれますように。


このまま彼の行き着く終着点が変わることを祈った。