「はっ、どうして従兄弟の桜坂さんがそこまで」


「霞のやりたいことは全て叶えてやりたい。ただそれだけだ」


困惑する先生に恭介さんは立ち上がって言った。いつも通りの口調と表情に戻っている。


彼は横に置いてあった私のリュックを持つと教室の扉に向かう。私も先生を尻目に先に出て行った恭介さんを追いかけた。



きゃあきゃあと騒ぐ女子生徒たちの花道を通って学校を後にする。彼の腕からリュックを受け取り背負った。


「来てくれてありがとう、でした」


「隠すようなことでもないだろう。次からはちゃんと相談してくれ」


窮屈だったようで彼はきっちりと締められたネクタイを引っ張り緩める。


「女の子たちに騒がれててよかったね……それに先生にも」


言ってしまった後に後悔した。恭介さんのご厚意で進学できそうなのに、なんて可愛くないことを。


「……嫉妬?」


「ちっ違います!!断じて!!本当です」


ぶんぶんと両手を振って否定する。しかしその手はいとも簡単に彼に捕まり、止められた。

「……かわいい」


その一言に頭はショート寸前。首まで赤くなる私に彼は溢れるような笑顔をみせた。そして左手だけを攫う。


指が絡まり合う。新月の夜を彷彿とさせた。


彼はかつての恋人にも同じことをしたのだろうか。そう思うと少しまたやきもち。


だけど今この瞬間だけは私のもの。


手を引いてゆっくりと前を行く恭介さんに追いついて隣を歩き出した。