Flower~君の美しい記憶の中で今日も生きていたい~

恭介さんは社長業務はしていないはず。それに私の従兄弟って……。

嘘に嘘を重ねる彼は先生が見ていないことをいいことに、口に人差し指を当て「ないしょ」と口を動かした。


「あっえっと、ひとまずおかけ下さい」


先生は名刺と恭介さんを目で往復して頬を紅潮させる。それもそうだ。彼のスーツ姿は初めて見たが、凄まじくかっこいい。


それに普段は見せない爽やかな笑顔。こんなの見せられればこの世の女性はイチコロだ。


世間話をする2人を横目で見ると絵になっている。先生は赴任した当初から美人と言われていたし、恭介さんと並ぶとお似合いだ。


ずきずきと胸がいたい。黒い雫が落ちて波紋が続く。


先に彼と出会ったのは私なのに。
彼に“すき”と“あい”を伝えたのは私なのに。


「佐々木さんは大学進学を考えているそうですけれど」


急に話の矛先が私に向いて俯いていた顔を上げた。


「……何か問題でもありますか?」


「ええ。成績が十分でもやっぱり金銭面がですね。ほら彼女って母親を亡くして親族の方にお世話になっているでしょう」


だから進学ではなくて……続くはずだった先生の言葉を恭介さんが「そのことなら」と被せる。


「費用なら俺が全額出すので霞の好きな大学に進学させてあげてください。大学は彼女の夢なので」