《side.桜坂恭介》

彼女がこの屋敷に来てから毎日が楽しくて忘れていた。

ウィンドウベンチに座って夜空に浮かぶすっかり細くなった月を見つめる。


__明日は新月か。


「んだよ、用件って」


いつも通りノックもなしに夜叉が部屋に入ってきた。夜も更けヤツは心底眠そうだ。どさりと遠慮をせずにソファに腰を下ろした。


「明日、俺はこの部屋から出られない」


「……?そうか、明日は新月か。早いな」


月が隠れるその日。刻まれた呪いは俺を蝕む。死に値する激痛が一日続くのだ。それでも俺は死ねない。


「霞を頼んだ。……嫌な予感がする」


「ハア。まあ頼まれてやる。俺もアイツは面白くて気に入ってるからな」


胸がざわざわする。この予感が当たらなければいいが。

夜叉を写していた目を再び浮かぶ月へ移し、睨んだ。