神様は超えられない試練は与えない、とはよく言う。けれどそんなの絶対に嘘だ。


大好きだった母を5歳の時に亡くし、父の再婚で義母と義妹ができた。


幸せ、なんて言葉は私の人生から消え失せた。ただ生きるために息を吸うだけ。


「朝ごはん、できました……」


各々朝の支度をする義母と義妹に声をかける。この家で私はずっと使用人みたいな扱いだ。もちろんご飯を一緒に食べることは許されない。


キッチンで一人、残り物でお茶漬けを作ってかき込む。


＿＿がしゃん


ポタポタと髪から水が落ちる。冷たい。足元にガラスが散っていた。幸い足に破片は刺さっていない。


「ねえ、この水冷たいんだけど。あたし冷たいのは嫌だって言ったよね」


「す、すみません。ごめんなさい」


「家に居させてあげて、加えて高校まで行かせてあげてるんだから感謝しなさいよ。ほんと同じ空気を吸いたくないわ」


義妹に続けて義母が言った。彼女らは何かと毎日怒る。その度に私は謝るしかない。


ガラスを手で拾って新聞紙に乗せる。


「っ！」


ガラスで指が切れてぷっくりと血が出る。だけど絆創膏は使えない。水道で洗い流す。髪から滴る水もタオルで拭き取った。