Flower~君の美しい記憶の中で今日も生きていたい~

人前では泣かないって決めてた。

なのに恭介さんの前では不思議と涙もろくなる。それでいて長く生きる彼は私の涙を受け止めてくれるから、もっと泣いてしまう。


強い風が吹いて花びらが吹き上がる。思わず目を閉じた。

𓂃◌𓈒𓐍

鳥のさえずりで起きるなんて初めてだ。加えて朝から義母義妹に罵られることもない。

幸せな朝を迎える。
体調もすっかり回復していた。

大きな部屋のカーテンを順々に開ける。溶けの針は7時を指していた。今日は土曜日で登校する必要はない。


空気を入れ替えるために窓も開ける。この客間はどうやら2階に位置しているようだ。初夏の風が舞い込んできた。


制服のまま眠ってしまったけれど、恭介さんが気をつけてくれたようで変な皺はついていなかった。


鏡を見ながらリボンを結ぶ。それから肩につくほど伸びた髪を手櫛で整える。


外の空気を胸いっぱいに吸い込んで窓を閉じ、私は部屋の扉を押した。


広い家は階段の作りも豪華で広い。家、ではなく屋敷と呼んだ方がいいかもしれない。


階段の壁には絵画が飾られ、木製の手すりの装飾は目を見張るほど巧みだ。なんだか階段を歩くのも申し訳ない気持ちになり音を立てないように降りた。