お金も、靴も、スマホも持っていない。制服だけを着ていて上着もない。私は呆然と立ち尽くした。


「さ、寒い……どこか風を凌げるところに行こう」


夜風が吹き、風邪をひいている私の体を冷やす。腕を擦りながら私はひとまず近所の公園を目指すことにした。

あそこなら水飲み場もあるし、ドーム型の遊具の中にいれば一日くらいは過ごせるだろう。


立ち止まっては歩いてを繰り返し、やっとの思いで公園までやってくる。


あとこの長い階段を登り終えたら……と最後の数段で思った時だった。


__ガクッ


「ぇ……あ」


激しい眩暈に襲われて足がふらつく。出していた一歩は空を切る。体が傾いて、地面からは足が離れた。

こんな高いところから転がり落ちたらひとたまりもない。手を動かして手すりを掴もうとしたが、力が入らず握れない。


__落ちるッ


次来る痛みに耐えようと目をぎゅうと固く瞑った。


「っ……あっぶね」


この場にいるはずのない人の声が聞こえた。それでいて腕を強く引っ張られて、私は誰かの温もりに包まれている。


恐る恐る瞼を上げると、目前に広がるグレー。腕から感じていた力は私の肩へと移動する。