「死ぬな……死なないでくれ、頼むから。俺を置いていくな……ひとりにしないでくれ」


俺の頬に触れていた暖かな手がずるりと落ちた。よく晴れた日だった。


時は戦国。
殺さなければ殺される。土と血と火の匂いが入り混じっている。


人質に取られた恋人を単身で助け出そうとしたものの、目の前で彼女は斬殺された。腕の中で今にも目を覚ましそうな彼女を抱きしめる。


『生きてください。あなたはこのようなところで死んではいけません』


彼女が最期に遺した言葉がこだまする。周りは敵で囲まれている。だけどせめて、彼女の願い通り、死に抗ってみようではないか。


「さようならだ、愛おしい人よ」


彼女の体を名残惜しくも冷たい地面へと置いた。自らの頬を伝う涙を汚れた手で拭う。


(カタワラ)に投げ置いた刀を握る。そこからは地獄だった。


斬り掛かってくる者を斬り返す。身体中血だらけになった。なぜ立っていられるのか自分でもわからない。


しかし武神と呼ばれた俺も数には勝てない。


ついに押さえつけられ、体を一突きだった。意識が朦朧とする。虫の息で死んだも同然の俺を放置して敵は引き下がっていく。

苦しい、苦しい、熱い、寒い。