Flower~君の美しい記憶の中で今日も生きていたい~

「俺からの餞別だ」


え、と声が出る前に目の前の彼の顔が近づいてくる。そして彼は私の額に優しい口付けを落とした。


目を瞑ってしまって開くともうそこには神様の姿はなかった。まるで夢のようだった。


指先でまだ彼の感触が残る額に触れる。実感が湧いてきて顔が熱くなる。今の私はきっとりんごのように顔が赤いだろう。


灯る温もりと手中のキーホルダー、黒い傘が幻のような彼との出会いを証明してくれた。


昨日まで足取りの重かった家路が今日は軽かった。


「ありがとうって言えなかったな」


また会えるかな、彼は何の神様なんだろうと静かな夜に考えながら眠りについた。