Flower~君の美しい記憶の中で今日も生きていたい~

止まっていた足が一歩また一歩と動きて、だんだん早くなり最後には走り出す。2人のうち片方が腕を広げた。


人目も憚らず飛び込む。片手に持っていた花束の花びらが衝撃で飛んだ。ついでに隣にいた男__夜叉にもまとめて抱きついた。


「__恭介さんっ!!!お帰りなさい」


「ただいま、霞」


カエルが潰れたような声を夜叉さんが出したので腕を緩める。今一度恭介さんの首に腕を回す。寄ってきた彼の柔らかな髪が頬を撫でた。


「卒業おめでとう。……夜叉、すまないが置いていく」


恭介さんは足が浮いていた私を下ろすと、手を取る。夜叉さんは呆れ声でさっさと行けと言い、手をシッシと動かした。


意地悪く口元を緩めた恭介さんは私の手を引いて走り出す。予想だにしない動きで足がつんのめる。


「わっ、え、ちょっ!!」


「転びそうになったら助けるよ」


__私が転びそうになったら助けてください


過去で城下町に興奮して走った時のことを思い出した。



手を引かれて着いた先は私たちが雨の日に出会った花畑だった。ベンチに2人で肩を並べて座る。


「……この場所は昔は花も咲かないただの野原だった」


「へえ、想像もつかない。今はこんなにたくさんの花が咲いているのに」