通学の途中に小さな神社がある。夏休み明けから通い始めたけれど、朝に来る私は他の参拝者をみたことがない。


暑い日も、雨や雪の日だって欠かさずここに来て両手を合わせて祈った。


「どうか、恭介さんが戻って来れますように」


夜叉さんが言っていたが、彼や恭介さんに不老不死や能力を与えたのは神様なんとか。だからどうにか私の願いも届くんじゃないかと思った。


風が吹いた。


「え……」


拝殿の階段を降りて顔を上げた時、そこには奇跡としか言えない光景が広がっていた。


境内に植えられた桜が見事に咲き誇っている。蕾もつけていなかった桃色のそれが咲いている。


しばらく見惚れて、それから鳥居を出たところにある石段に腰掛けた。リュックからノートとペンを出す。


小さな幸せを書き留めておくノート。毎日参拝した後にここで書いている。栞を挟めたところを開き昨日の日付を書いて、小さな幸せを書いた。


恭介さんが言った“小さな幸せを見つける”ことが今の私を生かしている。過去から帰ってきてから今を変えられなかった自分を嫌って、泣いた。


泣いて、泣いて、それから思い出に救われて、また生きることを決めた。あなたがきっと帰ってくると信じて。