Flower~君の美しい記憶の中で今日も生きていたい~

細長くハンカチを折りたたんで彼の手首に巻いて結んだ。ギリギリ結べる長さだった。


「汚したくないから戦前には外すが、ありがとう」


「はい、いってらっしゃい」


「行ってくる」


それ以上私たち2人の間に会話はなかった。すぐさま踵を返し重臣たちと共にお屋敷を出て、数えるには途方もない数の家臣を連れて行ってしまった。


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秋には帰ってくると言った彼だったが、季節は秋を巡り晩秋に差し掛かっていた。

その間も朝には太陽が昇り、夜は月と星が世界を照らした。


たまに耳にする戦況で恭介さんの無事を確認していた。便りがないのは良い便りとはまさにこのこと。


現代への帰り方がわからない私はどんな日も欠かさず野原に蒔いた種に水をやりに行った。だんだんと芽吹いたそれらは蕾をつけて色とりどりの花を咲かせていた。


「種を飛ばしてまた咲くんだよ」


花の海の中でしゃがむ。薄桃、深海、紅蓮、翡翠、一つとして同じ形のない花びらが風の波に乗って優雅に私の周りを踊る。


その中に私の花、霞も混じっていた。白い花が頑張って陽の命の中で生きている。


帰ろうと野原の手前で見守っていたお菊が珍しく大きな声を上げた。


「カスミ様!!お逃げください!!」


お菊と護衛の女中が懐剣を迫り来る数十人の男たちにむけている。束の間、彼女たちの鮮血が散った。


「いやああぁぁあああ!!!」