Flower~君の美しい記憶の中で今日も生きていたい~

恭介さんは途端に私を抱きしめた。熱を求めるように。この桜の香りに包まれると安心する。いろんな思い出が蘇ってくる。


彼の首元に頭を擦り寄せた。答えるように私の首の後ろに手が回る。


「心寄せる者をおいて戦いにいく恐怖を初めて知った。カスミ、俺は帰ってくる」


「約束ですよ」


「わかった。約束は絶対に破らない」


私たちはこの夜2人寄り添って眠りについた。穏やかな小夜だった。


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翌朝。お屋敷のいつも会議をしている場所には重臣と恭介さんが甲冑を持って集まっていた。


軍議は簡単に済まされ、数十分で姿を現す。中庭を挟んで反対側の部屋で待っていた私とお菊は襖が開いたのと同時に立ち上がった。


それが見えたのであろう。一番奥にいたが、最初に出てきた恭介さんが歩いてやってくる。


「……左手を出してくれませんか?」


彼の利き手ではない左手が出され、両手で握る。もう籠手などつけているから素肌には触れない。


お菊が私にとある物を差し出した。それを受け取り大きく開く。あの時、大きいものを選んでおいて正解だった。


「手拭い、か?」


「はい。買った物ですが恭介さんが無事に帰って来ることを願って。邪魔になったらすぐ外してくださいね」