犬飼くんの家庭環境なんて全然知らなかった。
「今は大丈夫なの? 従兄弟の家は……」
「大丈夫。他人だからかは分からないけど、グチグチ言われることもないし、殴られもしない」
この、「殴られもしない」で、ハッと我に返った永上くんは、「犬飼くん、ごめん!!」と、深く頭を下げた。
「俺、ムカついて殴った。犬飼くんが退学になればいいと思ってた。本当ごめん、俺が親友を責める権利はないし、俺も同じことをしちゃってた……」
震える声を精一杯発しながら、永上くんは深く深く謝罪をした。「だから、上野も俺を嫌わないで」と、ゴシゴシと腕で目を拭う永上くん。
――言わなくて良いことを正直に言う。なんとなく、永上くんが憎めない理由が分かった気がした。
「いや、俺も永上くんのことは嫌いだったからお互い様ってことで」
犬飼くんが永上くんを宥める。
そんな犬飼くんに気を良くしたのか、「じゃあこれから親友になってくれる!? 心開いてくれる?」と、吾をもすがるように問いかける永上くんに、「ムリ」と否定した。



