犬飼くんはむずかしい



 その瞬間、私の背後にいた永上くんが、「殴ったのは俺!」と、ヒョウヒョウと言い始めた。



「は!? なんで?」


「だってムカつくから……」


「ムカつくって言っても限度があるでしょうが!」


「だって、俺が好きな読モと少し顔が似てるからって、自分の方がカッコイイと思ってんのがムカついて!」



 永上くんの好きな、

「…………読モ?」



 話を聞くと、永上くんじゃない男子が犬飼くんにキレ始めたことを良いことに、どさくさに紛れて殴ったらしい。私情を挟みすぎている、なんとも迷惑な話だ。



 それにしても、その読モって……



 一旦犬飼くんから離れ、永上くんにちょっと、と、後ろを向かせ、事前にスカートのポケットに入れていたスマホを取り出し『その読モ、名前なに!』と半ば強引に質問をした。



「……甲斐谷(かいたに)ユウキだけど」



 グーグルの検索画面で「かいたにゆうき」と入れて検索をすると、先生が職員室で見せてくれた人物が飛び込んできた。