初恋ランチタイム


 カバンを胸に抱きかかえたまま走り、もうすっかり緑の葉が生い茂っている桜の木の陰からそっと中庭を覗く。

 少し前までオレンジや黄色のマリーゴールドが咲いていた花壇は、いつの間にか赤っぽい色の名前の知らない花に咲き替わっている。

 赤色の花をバックにうつむきがちに座っている新海くんの金色の頭は、遠くから見てもよく目立った。

 約束をしている火曜日と金曜日なら、なんの遠慮もなく真っ直ぐに新海くんの前に飛び出していくのだけど。今日は約束の日ではないので、カバンをぎゅっと抱きしめて少しだけ深呼吸。

「新海くん!」

 桜の木の陰から思いきって飛び出すと、黒色のステンレスのスープジャーに口をつけていた新海くんが、ビクッと肩を揺らしてゴホゴホとむせた。

 そんなに驚かせるつもりはなかったのに……。

「ご、ごめん……。大丈夫?」

 慌てて駆け寄ると、新海くんが口元に手をあてて、まだ少しコホコホと咳き込む。

「大丈夫。今日は月曜日だから、ニコちゃんは来ないと思って油断してた。どうしたの?」

 片目を細めながら、顔をあげる新海くん。見上げてくるその瞳に、どくんと心臓が鳴る。