家に入ってすぐにキッチンに向かうと、カレーの鍋に火をつけて、そのあいだに冷蔵庫から出したレタスを洗って千切る。
お皿にごはんをよそって、カレーをかけて、レタスと温泉卵とチーズをトッピングする。
そこまでの過程を、あとから家の中に入ってきたお母さんはカウンターキッチンの向こうから呆然と見ていた。
「すごいじゃない、仁瑚ちゃん。おしゃれカフェに出てくるメニューみたい」
盛り付けをしたカレーのお皿をテーブルに並べると、お母さんがびっくりまなこでわたしの顔とカレーを交互に見てくる。
「おしゃれカフェって……。お母さん、それはちょっと褒めすぎ。味はまだどうだかわかんないから、食べてみて」
ハハッと笑って、席に座ったお母さんにスプーンを手渡す。
向かい合って座ったわたしも、スプーンを持つと、「いただきます」でお母さんと一緒にカレーを口に運んだ。
「ん! 今回は成功だよね」
「うん、おいしい」
わたしの声とお母さんの声が重なる。
激マズ味噌スープやシャバシャバカレーを提供したときのお母さんは、あきらかにわたしを気遣って「おいしい」と言ってくれていたけど、今日の「おいしい」はお世辞じゃなくて本音。
ハイペースでスプーンを口に運んでいくお母さんを見たら、それがわかる。
ようやく、本当に美味しいと思ってもらえるものが作れて嬉しい。



