「え、おにぎり?」

 逃げ出すか、ツナマヨおにぎりを拾いに行くか。迷っていると、新海くんが顔をあげる。

「誰かいんの?」

「ひぃーっ。ごめんなさい!」

 新海くんの出した鋭く低い声にすっかり縮み上がってしまったわたしは、空っぽの右手と一緒に牛カルビ焼き肉おにぎりを持った左手をあげて、警察に追いつめられた犯人みたいに桜の木の陰から正体を現した。


「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! もう二度と新海くんがお弁当食べてるところを覗き見したりしません。卵焼きがおいしそうだなーなんて思ったりもしません。そこのツナマヨ拾ったら、どこか行くので。だから、怒らないでください!」

『学校始まって以来の不良』とウワサされる新海くんを怒らせてしまったら、何をされるかわからない。

 青ざめながら早口で謝ると、新海くんはお弁当箱を膝にのせて花壇に座ったまま唖然としていた。

「おれ、別に君のこと怒ってないし、卵焼きをおいしそうだと思うか思わないかも君の自由だと思うけど」

「え?」

 眉をハの字にした新海くんが、わたしを見上げて困ったように笑う。

 だけど次の瞬間、新海くんがパンッと手を叩いてわたしを指差した。