新海くんの座っている花壇からだと死角になりそうな、中庭の桜の木。
その陰に身を隠して、そっと様子を窺っていると、新海くんが地面に置いたカバンの中から何かを取り出す。
新海くんが膝にのせたのは、紺色の巾着。そこから、二段式のお弁当箱が出てくる。その蓋を開けた新海くんは、丁寧に両手を合わせるとお弁当を食べ始めた。
ごはんやおかずを少しずつ箸でつまんで口に運ぶ仕草はとてもキチンとしていて。『学校始まって以来の不良』とウワサされている金髪の新海くんとのギャップがデカい。
新海くん、お弁当持ってるのに、どうしてこんなところでひとりで食べてるんだろう。校庭の応援席で堂々と食べたらいいのに。
桜の木の陰でそんなふうに思っていると、新海くんがお弁当箱の中から卵焼きを摘まみ上げる。
新海くんの口へとゆっくり運ばれていく、黄色の卵焼き。それは、つやつや光っていて、少し離れた場所から見ていてもわかるくらい、やわらかそうで、美味しそう。
「いいなー」
おもわずつぶやいたわたしの右手から、ツナマヨおにぎりがぽとりと落ちる。
「あ」と思ったときには、それが昔話の「おむすびころりん」みたいに、ころころと転がっていった。
それも、新海くんのいるほうに。



