「うわー、最悪……」
焦げた卵を前にため息をついていると、リビングのほうで物音がして、お母さんが起きてきた。
「どうしたの? なんか焦げ臭いけど」
これはまずい……。
心配そうに近付いてくるお母さんの声を聞いて焦るけど、焦げた卵はどうやったって隠しきれない。
「あー、えーっと……」
お母さんに何と言おうか考えていると、お米が炊いていた炊飯器からシューっと白い湯気が出始めた。
それに気付いたお母さんが驚いたように目を見開き、それからふふっと笑い声をこぼす。
「もしかして仁瑚ちゃん、ごはんの用意してくれてたの?」
「うん。でも、卵焼きは失敗……」
うつむいてボソリとつぶやくと、お母さんがわたしの横から焦げた卵の塊を覗き込んで笑う。
「香ばしそうで、いいんじゃない? ありがとう」
どこからどう見たって焦げていておいしくなさそうなのに、わたしの作ったものを肯定してくれるお母さんの言葉に胸が詰まった。
お母さんの態度はいつも通りだけど、朝のことを謝るなら、たぶん今。



