「あとは、味付け?」

 お母さんの卵焼きは、少し甘め。

 キッチンの戸棚をあちこち開けて砂糖を見つけ出すと、小さなスプーン二杯分の砂糖を入れてかき混ぜる。

 それから、お母さんがいつも使っている卵焼き用の四角いフライパンを取り出すして温めると、ボウルの中の卵を全部流し込んだ。

 フライパンに卵を入れた瞬間、ジュッと焼ける音がしたけれど、いい感じの音が聞こえたのは最初だけ。

 全体的にうまく火が通らず、フライパンの上のほうに黄色い液体が溜まったままで固まらない。


「あれ、卵焼きって、どうやって巻くんだろう……。上のほうに火が通らないけど、卵の量が多すぎたのかな」

 ひとりでぶつぶつ言いながら、お母さんみたいに菜箸を遣って卵を巻こうとするけど、全然うまくいかない。

 試行錯誤しているうちに、フライパンに直に触れている部分の卵が焦げてきて。

 慌てて箸でぐちゃぐちゃと掻き回したら、卵焼きどころか、スクランブルエッグ……。

 というより、ただの焦げた卵の塊ができあがった。