わたしにとっては小さな頃からお母さんとふたりの生活があたりまえで、それを不満に思ったことや寂しいと思ったことは一度もない。
他の誰かの家ではお父さんとお母さんがそろっているのがあたりまえのように、わたしの家ではお母さんとの二人暮らしがあたりまえで。
その日常に慣れすぎて、お母さんがわたしを育てるためにひとりで頑張っているという感謝の気持ちを忘れかけてしまうこともあった。
たとえば洗濯物は、今日みたいにわたしが取り込んだり畳んだりすることはあるけど、毎日のごはん作りは小さな頃からお母さんの役割。
小さな頃から、お母さんはどんなに忙しいときでもわたしの食事を作ってくれるし、仕事でごはんの用意ができないときは「スーパーでお弁当でも買ってね」とわたしにお金を持たせてくれる。
だから、ごはんの用意はいつもお母さんに任せっきりで、わたしはほとんど料理をしたことがない。
ソファーで眠るお母さんの顔を眺めながら、ふと思い出したのは、新海くんのことだった。
三年前にお母さんを亡くしてから、お父さんと家事を分担していると言っていた新海くん。
疲れて眠っているお母さんの顔と新海くんの優しく笑う顔を思い出したら、わたしももっと何かしなくちゃという気持ちになった。



