「あー、腹減った~。にーの。弁当食お。弁当」

 四時間目終了のチャイムが鳴ると同時に、教室の一番前の席に座っている野田くんが大きな声で後ろを振り返る。

 すぐに椅子の足が床を擦る音がガガーッとうるさく響いて、わたしの斜め前の新海くんの席に、野田くんをはじめとする男子たちが数人集まってきた。

 男子達に囲まれて、さっきまでわたしの視界に入っていた新海くんの姿があっという間に見えなくなる。

「なあ、にーのの今日の弁当のおかずなに? おお、生姜焼き! めっちゃ美味そう」

 だけど野田くんの声がすごく大きいから、今日の新海くんのお弁当のおかずがなにかだけはすぐわかる。 

 新海くんのお弁当、今日は生姜焼きが入ってるんだ。見えないけど。

「え? タレも自分で作ってんの? すげーな、マジで」

 へえ。お肉を漬け込むタレは、市販じゃなくて手作りなんだ。それは絶対においしいだろうな。

「なあなあ、にーの。肉、ひときれだけちょーだい。あと、卵焼きも」

 こっそりと聞き耳をたてていたわたしは、野田くんの聞き捨てならないセリフにピクリと頬を引きつらせた。