「中村さんのタイミングで、いつでもどうぞ」
チェック表を構えてコンロの近くに立った伊藤先生が、わたしと目を合わせてにこっと笑う。
その笑顔がめちゃくちゃプレッシャーだけど、これが家庭科の実技の成績になるというのだから、頑張るしかない。
テーブルには、卵が二個ずつ入った小さなボウルが反応人数分用意されていて。わたしは自分の分をひとつ選ぶと、ボウルの中に卵を割った。
ひとつ目の卵はきれいに割れたけど、ふたつめの卵は割るときに少し指に力を入れすぎてしまって失敗。
この前お弁当に詰める卵焼きを作ったとき、何個も卵を割って練習したのに。
黄身が崩れた卵を数秒見つめてから、コンロの近くに立っている伊藤先生の様子を横目でそろっと窺う。
先生は作る工程には指示を出さないと決めているみたいで、チェック表の向こうからわたしのことを無言で見ていた。
卵の割り方ダメだったかな……。
えっと、次はどうすればいいんだっけ。
あ、そうだ。塩コショウして卵を溶くんだよね。



