◇◇◇
「ニコちゃん、どこ行ってたの?」
非常階段から戻ると、カノンとアキナが険しい表情でわたしのところへとんできた。
「もしかして、また……」
「違うよ」
疑いの目を向けてくるカノンに、苦笑いで首を横に振る。
「ちょっと、ひとりでごはん食べながら考えごとしてただけ」
「ほんとうに?」
「ほんとだよ」
何度もそう言ったけど、カノンの目はしばらくわたしのことを怪しんでいた。
昼休みに新海くんに会うことはできたけれど、わたしが彼と話せたのはほんの十分か十五分程度。
卵焼きだけがひとつ減ったお弁当の残りは非常階段でひとり淋しく食べたから、カノンに疑われるようなことは何もしていない。
新海くんが「美味いじゃん」と言ってくれた卵焼きは、砂糖がうまく混ざっていなかったのか、ところどころに甘くて。新海くんの卵焼きに比べたら、ふわふわ感も全然足りなかった。
ちっとも褒められるような味じゃないのに「美味しい」と言ってくれた新海くんはやっぱり優しいと思う。



