「それはダメ。ニコちゃんにはアイツみたいに嫌な思いをさせたくない」
「わたし、嫌な思いなんてしてないよ」
「今は大丈夫でも、このままおれと関わってたら、いつか嫌な思いをするときがくるよ」
「そんなのわかんないじゃん。わたしは、大丈夫かも……」
どれだけ必死に訴えても、新海くんは静かに首を横に振るばかりでわたしの主張を聞き入れてはくれなかった。
「ごめんね。ありがとう」
無理やり顔に貼り付けたような笑顔をわたしに向けると、新海くんがカバンをつかんで立ち上がる。
「待って、新海くん……」
すぐに呼び止めたけれど、新海くんはわたしを振り切って階段を駆け降りて行ってしまった。
非常階段に取り残されたのは、わたしと卵焼きがひとつだけ減ったお弁当箱。
「どうしよう、これ」
お弁当箱に視線を落とすと、わたしはひとりごとと共に深いため息を吐いた。



