新海くんがいつも教室でひとりでいるのは、たぶんウワサのせいだけじゃない。
新海くん自身も、自分から他人に近付くのが怖いんだ。
小学校時代の新海くんの話を聞いて、わたしの心は重たく悲しい気分になってしまった。
暗い表情で黙り込むと、新海くんも困った顔でうつむく。
だけどすぐに「あ」とつぶやいて、わたしとの間に置かれたお弁当箱のフタを開けた。
「もしよければニコちゃんの卵焼き、ひとつだけもらっていい?」
わたしが返事をする前に、新海くんが少し焦げた形の悪い卵焼きに手を伸ばす。それをパクッとひと口で食べた新海くんが、「ん……!」と口元を押さえた。
「ニコちゃんの卵焼き、美味いじゃん」
「ほ、ほんとう?」
「うん。このくらい砂糖多めでも美味いね。料理のセンスがないとか言いながら、なんだかんだでニコちゃん、頑張ってるよね」
絶対にお世辞だってわかってるけど、新海くんに「美味しい」って笑ってもらえたら、それだけで嬉しい。



