初恋ランチタイム


 闘病中の奥さんに近そうな年齢の女性や明らかに若い女性が日ごとに代わる代わる新海家の出入りしているのを見た近所の誰かが、新海くんたち家族の知らないところで『新海さん家の御主人が、奥さんのいないあいだに別の恋人を作っているんじゃないか』と言い始めたらしい。

 そのウワサはあっという間に広がって、気付けば新海くん達のことを見る周囲の目は悪意に満ちたものに変わっていった。

 新海くんが小さな涼音ちゃんを連れて近所の公園に行くと、事情を知っている子ども連れのお母さんに避けられるようになったし、学校で友達とちょっと言い合いになっただけで、「なにもしてないのに新海くんのほうが手を出してきた」とか、「お父さんの教育が悪いから」とか言われるようになってしまった。

「最初はおれも、『さーちゃんは従姉だ』っていろんなところで言いまわってたんだけど、おれがどんな主張したってウワサは消えてなくならないし。そのうち、わかってくれない人はどうでもいいや、って思うようになった」

「小学校のとき、新海くんの家のことをちゃんとわかってくれる人はひとりもいなかったの?」

「ううん、ひとりだけいたよ。幼稚園のときからの友達で、ずっと仲良かったやつ。そいつだけは、周りがおれのことをからかってきても『関係ない』っていつも一緒に遊んでくれてたんだけど……。六年生の夏休み前に、急に泣きながら謝られた。『ごめん、明日から遊べない』って」