「なんで? 一緒に食べようよ。今日、お弁当交換するんでしょう。約束したじゃん」
持っていたミニトートを新海くんの胸にグイッと押し付けると、彼が同じ力でそれをわたしのほうに押し戻してきた。
「そんな約束、無効だろ」
新海くんが冷たい目をして鼻先でふっと嘲笑う。その態度は、今までわたしが一緒に昼休みを過ごしてきた新海くんとはまるで違っていて。とても悲しかった。
でも、だからといって、わたしもすぐには引き下がれない。
「勝手に無効にされたら困るよ。だってわたし、約束どおりお弁当作ってきたよ」
わたしは笑顔を作ると、新海くんが肩にかけたカバンを引っ張って階段に座らせた。
「新海くんは全部冷凍のおかずでいいって言ってたけど、それだとやっぱりなーって思って。お母さんに教えてもらって卵焼き作ってみたの」
新海くんの困惑顔には気付かないフリをして、にこにこ笑いながらミニトートの中からお弁当箱を出す。
拳ふたつ分程度の間隔をあけて座っている新海くんとのあいだにお弁当箱を置いてフタを開けると、ふわっとおかずの匂いが漂ってきた。
ここまで来るあいだに、走ったり速足で歩いたりしたけど……。
よかった。中身はほとんど崩れてない。



