◇◇◇
「よかったら、座る?」
わたしが転がっていったツナマヨを拾いあげると、新海くんが自分の隣を指差した。
「いいの?」
「だって、それ、ここで食べようと思ってたんだろ。おれが移動するから、ニコちゃんはここ使って」
新海くんがそう言って、膝の上に置いていたお弁当箱に蓋をする。そうして花壇から立ち上がろうとするから、少し焦った。
できれば中庭でお昼を済ませたいけど、先にいた新海くんを追い出したいわけじゃない。
それに、わたしはもう、新海くんが怖い人ではないってことがちゃんとわかっている。
「移動なんかしなくていいよ。新海くんもここで食べて。わたしは隣のスペースを少し使わせてもらえたら大丈夫だから」
お弁当を持って立ち去ろうとする新海くんを止めると、彼が驚いたように目を見開く。
けれどすぐに優しい目をしてふっと笑うと、浮かしかけた腰をもう一度花壇の赤レンガに落ち着けた。
「ありがとう」
「いえ、こちらこそ」
新海くんの柔らかな笑顔にドキッとしたわたしは、視線をそらしてうつむくと、赤レンガふたつ分くらいの距離を空けて彼の隣に腰かけた。



