10時55分。
 面談会場の前にジェイと到着した。
 今日は白雪姫とシナモンには留守番をしてもらっている。
 全員で行っても、結局会場に入れるのは私だけだし。
 待たせるのも悪いから、留守番を頼んだのだ。
 まあ、留守番と言っても。
 本来の領地調査に出向いてもらっているわけだけど。

 会場前に立っていたのは、見知らぬ騎士団の男だった。
 ドラモンド侯爵家の騎士団は皆、背が高いイメージだけど。
 目の前にいる男は170cmもないくらいの小柄な男だ。
 制服があまりにも似合ってなくて、笑いそうになるのを堪える。
「ごきげんよう」
 目が合ったので挨拶すると、男はあからさまに嫌な顔をした。
 なんで? と思うと同時に男はため息をついてきた。
 あからさまな態度の悪さにジェイが「おいっ」と低い声を出して威嚇しようとしたので、慌てて肘鉄を喰らわす。
「一時間の遅刻ですので、面談はもう叶いません」
「…え? 11時からですよね」
 男の前に立つとやっぱり背が低い。
 短髪によく見るとダークグリーンと言えるような深い緑色をした瞳がこっちを睨みつけている。
「いいえ、エアー様は10時からとなっておりますが」
 はっきりと言い切った相手に、私は「どういうこと」と口に出してしまった。
 そして…数十秒の間に、なんとなく理解してしまったのだ。
「あの、そちらの…ドラモンド侯爵の騎士団の中にうさぎみたいな顔の人っています?」
 急に何を言い出すんだという表情と「うさぎ?」と訳の分からない顔をされたが。
「動物のような顔の人間はいません」
 これまたはっきりと言われてしまった。

「わかりました。ごめんなさい。時間を勘違いしてしまいました。鈴様にも謝罪の言葉を伝えておいてください」
 ここで、ごねても不利だというのはわかっているから。
 潔く謝って家に戻るしかなかった。

「どういうことだ、ミュゼ」
 ジェイがこっそりと()いてくる。
「…ご令嬢の暇つぶしでしょ」