北部の駅に到着して汽車を降りた途端、寒さで身体がぶるりと震えた。
 空気が違った。
 年間18~20度を保つ比較的温暖なティルレット王国のはずなのに、北部ってこんなに寒いのかと驚く。
 駅からは、ドラモンド家からの迎えの車に乗り込んで揺られること1時間。
 車を降りると目の前に大きな門があって、門が開いて中に入ると。
 また、車に乗り込んで15分ほど走ったかと思えば止まった。
「明日の10時に迎えに上がります。本日はゆっくりと身体をお休めください」
 案内の係の人間が頭を下げると、すぐに車は急発進していく。
 あっけにとられながらも、目の前の一軒家を眺めた。
 近くに家はなくて、この家だけ見ると別荘地のようだ。
 …別荘というには、ちょっと小さいのかな?

「俺がまず、家の中が安全か見回って来る。確認できたら荷物を運んで部屋割りするか」
 リーダーシップを発揮するのはジェイだ。
 私たちはジェイの言葉に素直に頷いた。

 ドラモンド侯爵はキレ者だということを忘れてはならない。
 どこでどのタイミングで覗かれているかがわからないから油断はならない。
 ジェイが室内の確認をしてくれた後は、荷物を運んで。
 部屋割りをした。
「女性は安全面を考えて2階にしよう。俺と白雪は一階で寝泊まりするから」
「えー、おいら。シナモンちゃんと同室でもいいんだよぉー?」
 と上目遣いで言う白雪姫に無言で顔面パンチを喰らわした後。
 2階に上がって部屋を見て回って。
 シナモンに「一番広い部屋をお使いください」と言われたので遠慮なく一番広い部屋を使うことにした。

「てっきり、合宿みたいな感じで、花嫁候補全員で一つの建物で寝泊まりするのかと思った」
 夕食時、シナモンとジェイが作ったご飯を食べながら私が言う。
 私と白雪はからっきし料理は出来ないけど。
 流石はシナモン。侍女として凄い。
 ジェイもそういえば、料理好きだったなあ…と今になって思い出した。
 牛肉のステーキと、サラダ、スープに焼きたてのパン…
 食材は既にキッチンに用意されていたそうで、シナモンは喜んでたなあ。

「ミュゼお嬢さん。忘れちゃいけないぜ。貴族の娘がライバルの貴族の子と一緒に寝泊まりするわけないだろうが」
 白雪は口の周りを汚しながら言った。
 そんなもんなのかな…と呟く。
「恐らく、それぞれ一軒家を与えられて大会の間、おのおの過ごせってことだろ。想像つかないなー大会って何やるんだ? 筆記試験でもあるのか?」
 ジェイの言葉に、「どうだっていいよ」と投げ入りに答える。
 テキトーにやりながら、北部の様子を伺えばいいのだから。
「おいらは、貴族の美人ちゃんと仲良くなれたらいいなあ」
 白雪の言葉に、大丈夫なのかコイツ…と思わずにはいられなかった。