Cherry Blossoms〜感情より大切なもの〜

互いに見つめ合うこの時間は、今どのくらい経ったのだろうか。二人の顔は変わらず赤く、鼓動は早いままだ。一秒すらも早いはずなのに、まるで永遠のように感じてしまう。その時だった。

「ご注文はお決まりですか?」

個室のドアがノックされ、チェックのエプロンをつけた店員が少し困った様子で部屋を覗き込む。いつまで経っても注文しないため、様子を見に来たようだ。慌てて桜士は一花の手を離す。

「すみません!ブレンドコーヒー二つお願いします」

一花がそう店員に慌てたように注文する。店員は頭を下げ、再び個室のドアは閉じられた。閉じられたドアをどこかホッとしたように見つめる一花の顔は、まだ赤い。

「四月一日先生、すみません。僕が長々と話してしまったので」

桜士がそう言うと、一花は「そんなことないです」と首を横に振る。そして、リンゴのように赤い頰に手を当てて俯きがちに何かを小さく呟く。普通の人ならば、きっとその言葉は聞き取れないだろう。だが、潜入捜査官として訓練された桜士の耳にははっきりと聞き取れた。