Cherry Blossoms〜感情より大切なもの〜

「あの、本田先生。スーツ、本当に申し訳ありませんでした。私が払いますので、何でも好きなものを頼んでくださいね」

一花が申し訳なさそうに頭を下げ、桜士は自身の着ている黒いスーツの胸元を見た。そこは一花の流した涙でまだ濡れている。

葬儀場にて、気持ちが少し落ち着いた一花は桜士のスーツを見て顔を真っ青にし、クリーニング代を出そうとしたところを桜士が「それなら一緒にカフェに行きたいです」と言い、今に至る。

葬儀場からそれほど遠くないこのカフェは、桜士も一花も入るのは初めてだった。だが個室もあり、メニューも女性向けのSNS映えしそうなものばかりではなく、桜士は一瞬で気に入ってしまった。

(こういう個室は、公安の協力者とやり取りする場所としてよさそうだな……)

そんなことを頭の片隅で思いつつ、桜士はメニューをめくっていく。その間も一花からの申し訳なさそうな視線が突き刺さり、桜士は笑ってしまった。