Cherry Blossoms〜感情より大切なもの〜

「誰かのために笑ったり涙を流すのに、時間なんていらないんですよ。自分の感情に従っていいんです。みんな、悲しいんですから」

「先生……!」

一花はまた声を上げて泣き始める。その頭を桜士はずっと撫で続けていた。思い切り泣くことで、人は悲しみを乗り越えていく。それを、公安警察となった日から嫌と言うほど桜士は叩き込まれてきた。

公安警察の追う事件は、日本の平和を脅かすものばかりだ。時には敵の組織に潜入し、時には激しい乱闘の中に突入することもある。そのたびに、誰かの命が犠牲になってしまうことは珍しくない。

「今は、折原さんのことを考えましょう」

雨音が、どこか大きくなった気がした。一花の声をかき消すように大きくなった雨音を聞きながら、桜士は目を閉じる。

閉じられた瞼の裏に浮かんだのは、命を失った捜査官たちと藍の姿だった。



数時間後、目を真っ赤に腫らしているものの、ようやく少し落ち着いた一花を連れて、桜士は個室のあるカフェに来ていた。個室には、名前もわからない曲が流れている。