Cherry Blossoms〜感情より大切なもの〜

一花はペコリと頭を下げる。彼女が頭を下げると、犬の尻尾のように髪につけられたリボンが揺れる。桜士はスーツのジャケットを脱ぐと、彼女の小さな体に羽織らせた。

「寒いですから、風邪を引かないように会場に着くまでは羽織っていてください」

「あ、ありがとうございます……」

一花は桜士のジャケットにそっと触れる。温かいジャケットにホッとしたのか、優しい笑みを浮かべる一花に桜士は心拍数の上昇を感じつつ、車のドアを開ける。

「どうぞ、乗ってください」

その様子はまるで、お嬢様に仕える執事を思わせる光景である。一花もそれを想像したのか、「本田先生、執事みたいですね」とクスクスと笑う。それを聞いた桜士は微笑み返した。

「あながち間違ってはいませんよ。今日は皆さんから四月一日先生のエスコートをするように頼まれていますから」

そう言いながら桜士が手を差し出すと、その手を一花は少し恥じらいつつも、小さな手を重ねる。

「今日はお忙しいのに、ありがとうございます」