故人との最後の別れの場である葬儀場は、暗い雰囲気に包まれている。藍の友人らしき数人は集まって涙を流していた。

短いような長いような葬儀が終わり、桜士は無言のまま葬儀場を後にしようとした。その時、一花にヨハンが声をかけているのを見かける。

「一花、一緒に帰ろう。どこかで食べてこうぜ」

「ヨハン、ごめんなさい。今日はいいわ。先に帰ってて」

一花は笑みを浮かべながら言う。だが、その目元は全く笑っていない。無理をして笑っているのだとすぐにわかる。桜士はもちろん、ヨハンも気付いていた。

「そっか。気を付けて帰れよ」

「ありがとう。ヨハンも気を付けてね」

ヨハンは一花を一人にさせることにしたようだ。一花の頭を優しく撫でた後、葬儀場を出て行く。ヨハンが出て行った後、一花の顔から笑みが消えた。瞳が潤んでいき、華奢な手は喪服のスカートを強く掴んでいる。

「四月一日先生」

ヨハンは「一人にさせる」ことを選択したが、桜士は放っておくことができなかった。気が付けば一花の前に立ち、声をかけていた。