そう話す一花の瞳は今日で何度目かわからないほど、ぼんやりと揺れている。桜士はポケットから未使用のハンカチを取り出すと、そっと一花に渡した。

「四月一日先生、あなたには笑顔がよく似合いますよ。その笑顔に、患者さんはもちろん、僕たちも安心しているんです」

「そうなんですね。嬉しいです!」

一花が笑うと、細められた目から涙が溢れていく。一花は「ハンカチ、すみません」と謝った後、ハンカチで涙を拭いた。そして、再びコーヒーに口をつける。

「うん、おいしいです!」

完全に藍の死から乗り切れたというわけではないだろう。大切な人というランクを一度つけてしまうと、その人がいなくなってしまった時の悲しみは大きいものだ。だが、いくら泣いても死者は帰って来ない。残された者にできるのは、ただ乗り越えていくことだけである。

「はい、本当においしいです」

桜士もそう言ってコーヒーに口をつける。程よい苦味が口の中に広がり、いい香りが鼻腔に入り込み、心を落ち着かせていく。