桜士が湯気の立っているコーヒーを見つめ、そう言うと、一花ももう一口コーヒーを飲んだ後に言う。

「どんな豆を使ってるんでしょうか？何杯でも飲みたくなっちゃいます」

数時間前に桜士の胸の中で泣いていた姿が嘘のように、一花は笑っていた。藍が亡くなってから、一花は笑顔をどこかに忘れてきてしまったかのように表情が暗かった。久々に見る彼女の笑顔に、桜士はまた彼女に対して想いが募っていくのを感じる。

「……やっと、あなたの笑顔が見れました」

桜士がそう言うと、一花は一瞬キョトンとした顔を浮かべた後、自身の顔に触れる。そして上がっている口角に触れた時、「私、笑ってるんですね……」と驚いたように言った。

「どんなに泣いても、涙が止まりませんでした。弟たちがお笑い番組を見せてくれたり、eagleのみんなが話しかけてくれたのに、笑い方を忘れてしまったみたいに笑えませんでした。でも私、今、笑えてますね」