土砂降りの雨が、街を濡らしていく。そんな中、榎本総合病院で産婦人科医として働いていた折原藍(おりはらあい)の葬儀は行われた。

葬儀に使われる棺の中には、通常は故人の遺体が入っている。これは当然のことだ。だが、藍の棺の中は空だった。それもそのはずである。藍の遺体はお墓には入らず、骨格標本として医大に置かれることになる。そのため、棺の中は空っぽだ。

榎本総合病院に本田凌(ほんだりょう)という名前で潜入をしている公安警察、九条桜士(くじょうおうし)も、短かったとはいえ藍と関わりがあったため、葬儀に参列した。葬儀に参列したのは桜士の他に、救急救命医の四月一日一花(わたぬきいちか)とウガンダ出身の小児外科医のヨハン・ファジルがいた。

葬儀会場にて桜士が見かけた藍の両親と夫だった男性は、どこか魂が抜け落ちたかのように虚ろな目で参列者たちに頭を下げていた。それは一人娘を失った悲しみからか、娘が骨格標本になることを選んだためなのかは、わからない。