そこにあったのは、地球と同じ光景でした。

「わぁ~」

 歩詩子は感激しました。

 木や花や草が茂り、遠くには家や山も見えます。公園のような広場には、犬も猫もいます。

 そして、たくさんの人たちがいて、楽しそうに話したり、遊んだりしていました。

 乳母車に乗った赤ちゃんも、滑り台で遊ぶ子どもも、ベンチで語らうおじいちゃんもおばあちゃんもいます。

 花をつんだり、木登りしたり、絵本を見たり、本を読んだりしています。

 肌の白い人も、黒い人も、黄色の人もいます。

 みんな、楽しそうに話したり、笑ったりしています。

 歩詩子がニレの木陰に立っていると、

「一緒に遊ぼ」

 と、白いTシャツを着た肌の黒い少年が声をかけてきました。

 外国語のようだけど、何を言ったかわかりました。……不思議です。

 うつむいていると、少年は歩詩子の手を握りました。




 連れてこられたのは、小川のほとりでした。

「あの雪どけが流れてるんだよ」

 少年は、遠くに見える、まだ雪が解けてない白い山のてっぺんを指差しました。

「ぼくはロク。海しか知らないから、山を見るのは初めてなんだ」

「わたしはほしこ。山しか知らないから、海は見たことないの」

「見せてあげたいな。どこまでも続く青い空と海。水平線が一本、真っ直ぐ伸びているんだ。今度、連れてってあげる。あの山の向こうにあるんだ」

 ロクはまた、山のてっぺんを差しました。

「へー。……見たいな~」

「見せてあげる。どうやって行くかわかる?」

「ううん」

「トニオのゴンドラに乗せてもらうんだ。トニオはゆっくり漕いでるけど、あれだと、あっという間に海に着けるからね」

「へー、……いいな~」

「トニオに予約しとくよ」

「うん」

「ぼくのおばあちゃんを紹介するよ。おいで」

 ロクが歩詩子の手を握りました。



 着いたのは、サクランボの木の下でした。

 そこには、ロッキングチェアに座ってレース編みをしている色白のおばあちゃんがいました。

「おばあちゃん、ほしちゃんて言うんだ」

「こんにちは。ほしこです」

「あら、こんにちは。私はロクのばあちゃんで、エリザベスと言います。よろしくね」

 どこの言葉かわかりません。でも、意味は通じます。ホント、不思議です。

 でも、もっと不思議なのは、黒い肌のロクのおばあちゃんが、白い肌をしていることでした。

「ほしちゃん、パパとママも紹介するよ」

「うん」



 ロクに連れて行かれたのは、大きな公園でした。

 そこには、白い肌の少女が乗ったブランコを揺らすパパとママがいました。

 パパの肌は黒く、ママの肌は黄色でした。

「やあ、こんにちは。私はロバートと言います。ロクのパパです」

「ようこそ。私はキムと言います。ロクのママです。よろしく」

「ハーイ! わたしはカトリーヌ。ロクの妹よ」

 みんな、肌の色も言葉も違うのに、一つの家族なのです。とても不思議です。



 歩詩子は、自分のパパとママを捜そうと思いましたが、どうすれば見つけられるかわかりません。

 困った歩詩子は、さっきのニレの木陰のとこにやって来ました。

 歩詩子が寂しそうにしていると、

「ほしちゃん、どうしたの?」

 ロクが尋ねました。

「……パパとママを捜してるの」

「ほんとのパパとママを?」

「そうよ」

「それは無理さ。ほんとのパパとママなんて、ここにはいないんだ」

「えっ! どうして?」

「ここは、一人ぼっちの人ばかりが集まって家族を作る、“星の国”だからさ」

「でも、トニオはパパとママに会えるって」

「でも、ほんとのパパとママとは言ってないだろ?」

「……うん」

「こんなパパが欲しいな、こんなママが欲しいなって思った人が、ほしちゃんのパパやママでいいんじゃないかな。ぼくだって、ほんとの家族じゃないけど、とても幸せだよ」

 そう言って、ロクが笑顔で歩詩子を見ました。歩詩子もほほえみました。

「ぼくは、戦争でパパもママも妹も亡くした。……一人でどうしたらいいかわからなくて、海に行ったんだ。夜空を眺めながら泣いてたら、トニオが声をかけてくれて、ここに連れてきてくれたんだ」

「……そうだったんだ」

「……もし、ここがイヤなら地球に帰ることもできるよ。どっちにするかは、ほしちゃんが決めるんだ」

「…………」

 歩詩子は迷いました。パパとママが欲しい。でも、欲しいのは本当のパパとママです。



 ――歩詩子は、バラの花で飾られた扉の前に立っていました。