男が肩をすくめるとギターを眺めた。

「実は俺もギター捨てにきたんだよね」

「えっ?捨て、ちゃうの?……大事なモノでしょう」

「それいうならアンタ、えっと月乃?月瀬?もだろ?てゆうか名前どっち?」

男は当たり前のように名字ではなく下の名前を訊ねてくる。私は小さく跳ねた鼓動に気づかないようにしながら涼しい顔で答えた。

「本名が春乃月瀬。ペンネームは本名入れ替えただけだから。ちなみに年は十八、高校卒業したばっかだから」

「マジで?」

男が切長の瞳を大きくした。こうやって男の顔を間近にみると、染められた青髪は蒼い海のようでよく似合っている。そしてアーモンド型の切長の黒い瞳は黒目が大きくて睫毛が長く綺麗な顔立ちをしている。

「あなたも、名前おしえてよ」

私が自分から他人の名前を聞いたのは初めてだ。他人への執着も関心もないから。

「あ、俺の名前は星宮蒼(ほしみやあお)。唄歌うときの活動名はブルースター」

「ブルースター?お花の名前だよね?」

「あぁ……よく知ってるな。由来は名字と下の名前を組み合わせんだ。月瀬と一緒だな」

月瀬、と同年代の男の子に名前を呼び捨てされたのは初めてでお尻がむずむずする。

「そう、なんだ……ほんと偶然ね、ちなみに年は?」

蒼は私と同じ年位か少し大人っぽく見える。蒼は左耳のピアスを揺らしながら、歯を見せて笑った。