その物語のタイトルはいま君の掌の中に

「まあな、声調子悪いから歌詞なしだけど……昨日暇だったし……月瀬に聴いて欲しくてとりあえず最後まで音符並べてきたんだ」

「あ、この間図書館の帰りに聴かせてくれた曲?」

「まあな、ブルーレイン久々の新曲ってやつ?」

唇を持ち上げた蒼を見ながら私は拍手をした。

「嬉しい、蒼の曲聴かせて」

「うん……」

蒼は一呼吸するとピックで弦を(はじ)き始める。

低音から始まった曲は、少しずつテンポを上げながらも優しく穏やかに心ごと包むようなバラードだった。音の一つ一つが寄り添って夜空にぶら下がって笑いながら降り注いでくる。それはまるで心に向かって真っ直ぐにまるで星を堕とすように。

私は歌詞がないのに涙がとまらなくなった。蒼から大丈夫だよって、もう泣かなくてもいいからって言われてる気がした。

「……ひっく……ぐす……」

どうしたらいいんだろうか。蒼が好きで好きでどうしようもない。言葉にできない想いは溢れて零れ落ちて、目の前の海が私の涙にみえた。

「月瀬」

弾き終わると蒼がすぐに私を痛いほど抱きしめる。

「……蒼……」

呼吸ができないほどに強くぎゅっと抱きしめられて、夜空の星が涙の膜と共に流れて消えていく。

「……蒼……私……蒼の曲ね……」

「月瀬、明日感想聞かせて?」

蒼は私の言葉を遮ると額にキスを一つ落とした。驚いた私が言葉を吐き出せずにいると、蒼が首を大きく傾けて夜空を見上げた。

「ほら月瀬、降ってきた」