その物語のタイトルはいま君の掌の中に

「もうっ……まだ一時間前だよ」

私の声に塀に体を預けていた蒼がふっと笑った。

「それ言うなら月瀬もじゃん」

「咳どう?熱は?」

蒼の声は昨日より少し良くなった気はするがまだやっぱり掠れている。

「熱なし、咳もほとんどない。葛根湯が効いた」 

ニッと笑った蒼に思わず私も笑い返した。

「あれ?蒼ギター持ってきたの?」 

「まあな、あとでのお楽しみ」

蒼がギターを肩から掛けたまま自転車のサドルに座る。

「落っこちんなよ」

当たり前のように蒼が自転車の後ろに乗せてくれるのが嬉しくて、私は蒼の背中を今までで一番強く握りしめた。