その物語のタイトルはいま君の掌の中に

「まず風邪引いたのは夜寒いのに、俺の寝相が悪くて毛布蹴飛ばして寝たからで、月瀬のせいじゃない。あとお父さんに殴られたのだって……ケホッ……月瀬と少しでも長く居たくて夜遅くまで引き留めたせいだから。それに俺のせいで月瀬が殴られたりするとこなんか見たくないし、何がなんでも守ってやりたかったから……だから全部月瀬のせいじゃないよ」

「ごめんなさい……弱くて何もできなくて」

私は蒼に気づかれないように涙を拭う。私は本当に弱い。もっと強くなりたいのに、なんでも自分の力で解決したいのに、蒼に優しくされたら縋るばかりで結局、心が涙で溺れていく。

「そんなことないから……月瀬泣くなよ、心配になる」

「泣いてないよ……ただ……」

「ん?どした?」

「……会いたいの……蒼に会いたい」

もう誤魔化しがきかないほどに私の声は涙声だ。

「さすがに……今日は会えないけど明日なら会えるよ……俺も会いたい」

私はふと昨日の蒼の言葉を思い出す。

「蒼、明日流星群見たい……」

「え?いや夜は無理だろ」

「ううん、大丈夫。明日はちゃんとお父さんに言ってから出掛けるし……蒼と過ごす最後の夜だから……」

蒼は暫く黙っていた。多分私がまた父に怒られたり喧嘩になったりしないか心配してくれているのだろう。 

「蒼、お願い」

「じゃあ、必ずお父さんに言うことと。あとあったかい格好して来いよ……ケホッ……」

「蒼もね」

「だなっ」

電話ごしに聞こえてくる蒼の声がくすぐったくて、でも嬉しくて堪らなくてこの電話回線が永遠に切れなければいいのにと、この時の私は真剣に願っていた。

それ程、もう蒼に後戻りのできない初めての恋をしていたから。