「あれ……?」
いつもならそのままにしてあるシンクの食器は綺麗に洗ってあり、テーブルの上には初めてみる食べ物がラップをかけて置いてある。
「これって……」
私がそっと手を伸ばした先には、丸でも三角でもない歪なカタチのおにぎりが二つ並んでいた。そして白い小さなメモには一言だけ父の直筆で走り書きがしてあった。
──『昨日は悪かった』
その文字も不恰好なおにぎりもうまく見えなくなって瞳から溢れた水玉が床に転がっていく。私は椅子に座ると手を合わせてから、おにぎりにかぶりついた。
料理などしたことない父だ。多分おにぎりなんて初めて握ったに違いない。雑に梅干しが突っ込んであるだけのおにぎりだったが、今まで食べたおにぎりの中で一番美味しかった。父が私の為に何かをしてくれた事も父が私に謝ってくれたことも、私と向き合ってくれたことも全部が嬉しかった。
「ご馳走様……でした」
私はコップに注いだ水を一気に飲み干すと目頭を袖で押さえた。
──『月瀬』
ふいに天井から蒼の声が聞こえた気がして蒼に堪らなく会いたくなる。



