その物語のタイトルはいま君の掌の中に

「……わかりました、近日娘さんとは必ず別れます。その代わり……僕からも一つお願いさせてください」

「なんだと?生意気なっ……」

「本当にすみません……僕なんかが立ち入っていい話じゃないのも十分理解してるつもりです……ただ、ほんの少しでいいから、お父さんも月瀬さん自身を見てあげてもらえませんか?寂しさに寄り添ってあげてもらえませんか?」

私の目の前の景色も蒼も全部が滲んで膜が張る。何一つ確かに見えない。それでも蒼の声だけはハッキリと心に響く。

「……月瀬さんの心を守ってあげられるのは……お父さんだけだと思うので」

父が蒼から乱暴に手を離した。

「……もう帰ってくれ!月瀬、家に入りなさい!」

「嫌だっ、蒼っ!」

蒼は家の中へと引き摺られるように連れていかれる私をただ黙って見ていた。扉が閉まる瞬間、蒼を見れば蒼が泣いているように見えた。