その物語のタイトルはいま君の掌の中に

パシッという乾いた音に、瞑った目を開ければ父が驚いた顔をしている。蒼が血の滲んだ唇の端を手の甲で雑に拭った。

「あ、お……」

「……月瀬さんとお付き合いさせて頂いている星宮蒼と言います……大事なお嬢さんを遅くまで連れ回して申し訳ありませんでした」

蒼は長身を折り曲げ頭を深く下げた。

「蒼やめてっ!蒼がお父さんに謝ることなんてないよっ!私のことなんてどうでもいいんだから!」

父が蒼の胸ぐらを掴み上げた。

「随分と娘を手名づけているんだな……」

「お父さんいい加減にしてっ、蒼は何にも悪くないじゃないっ……!こんな時だけ親みたいな態度しないで」

蒼の視線が私へと移される。

「月瀬、お父さんは間違いなく月瀬の親だよ。親なら子供の心配して当然だから。分かんない?お父さんは月瀬を本当に心配してるんだ」

「ふんっ、お前のような髪をそんなワケの分からない色に染めた、ろくでもない奴が分かったようなこと言うな!娘を思うならさっさと別れてくれ!」

「お父さんっ!」

蒼が目を伏せると静かに頷いた。