その物語のタイトルはいま君の掌の中に

聞き慣れたその低い声の方を見れば出張帰りのスーツ姿の父が立っていた。 

「あ、お父さん……」 

「お父さん?」

すぐに蒼が聞き返した。

父は私達のところにやってくるとすぐに私の手首を掴み上げた。

「こんな時間まで、どこで何してたんだっ!」

「痛いっ、お父さん離してよっ!」

今まで門限のことなんて言われたこともなければ、いつ帰ってくるのもどこへ行くのかも聞かれた事など一度もない。

「月瀬っ!言いなさい!よりによってこんな奴と!」

(こんな奴……?)

父が蒼を冷たい眼差しで睨むのが分かった。

「そんな言い方やめてよっ!蒼はわざわざ私を家まで送ってくれたんだよっ」

「どうだかな、世間知らずのお前には分からないかも知れないが、こんな奴がお前に優しくするなんて、やましい気持ちがあるに決まってるだろうっ!」

「見た目で蒼のこと判断しないでよっ!私の事だって……男作って出て行ったお母さんに重ねて、いつもほったらかしじゃない!私のことなんて見えてないくせに、見ようともしないくせにっ!お父さんなんて大っ嫌いっ!」

「月瀬っ!」

父が掌を振り上げるのが見えた。

(殴られるっ……)