その物語のタイトルはいま君の掌の中に

夕陽が水平線に綺麗に隠れるのを待ってから、私は蒼の自転車の後ろに乗って家へと向かう。

真っ直ぐ前を向いたまま黙って自転車を漕いでいた蒼が、私の家の前の坂道で足を止めた。

「さすがにこの坂は、月瀬乗っけて登れないな。ごめん、筋トレ不足」

「あはは、筋トレの問題じゃないでしょ」

「だな」

ポツンポツンと立っている街灯の明かりで伸びた二人の影を見つめながら、私は蒼のトレーナーの裾を引っ張った。

「……今日はギター教えてくれてありがとう」

ちゃんとお礼を伝えておきたかった。もう二度と蒼にギターを教えて貰うことはないと分かっていたから。

「……忘れんなよ」

蒼は私を見ずにボソリと呟いた。

玄関前まで辿り着くと私は蒼を真正面から見上げた。 

「送ってくれてありがとう」

「どういたしまして。月瀬、また明日な」

「うん、蒼また明日ね」

蒼が手を上げるのを見て、私も手を振り返した。

その時だった。

──「月瀬、何してるんだっ!」